2012年6月18日月曜日

読了: リーン・スタートアップ

今年春頃から各所で話題の本「リーン・スタートアップ」を読了した。
これスゴ本。

著者はシリコンバレーで成功したベンチャー企業でCTOを務めたのを始め、数々のベンチャー企業で事業戦略や製品戦略のアドバイスをしてきた人である。本書は、著者がトヨタのリーン生産方式を依り処にしながらイノベーションを生み出す方法論としてまとめあげた「リーン・スタートアップ」という考え方について書かれた本である。簡単に言えば、スタートアップが成功するための方法論のひとつである。

ここで言うスタートアップとは、
とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない人的組織
のことである。

こうした組織は、業界問わずしてあるだろうし、またベンチャー企業だけでなく大企業の中にでも、新規事業部として見つけることもできだろう。そういう意味では本書はモノ作りに関わる全ての人のため向けの本と言える。

こうしたスタートアップが「成功する」 =「持続可能なビジネスとしてプロジェクトが周る」にはどのようにしていくべきかについて書かれている。

著者は「何でも良いから、とにかくやってみよう」といった昨今のスタートアップ的な慣習に警鐘を鳴らす。「とにかくやってみよう」の精神で、1年以上も製品開発に時間をかけて、結局「流行りませんでした」では意味がないし、持続可能な活動にはならないじゃないか、というのである。


そこで、リーン・スタートアップは、「イノベーションを起こそうとするときには、そのイノベーションが依拠している「仮説」をとにかく検証していくことが大事である」、ということを主眼とする。


もう少し具体的に見てみよう。
リーン・スタートアップの提案する製品開発は以下のプロセスに集約される。

【構築】プロジェクトの成功に関わる「仮説」を洗い出す。その中でもプロジェクトの成功にとって影響度の大きいと思われる「仮説1つ」を元に、仮説を検証するに足るだけの、なるべく小さな「製品」を作る。
【計測】その製品をユーザに使ってもらうことで「仮説を検証」する。
【学習】上記の検証を元に学びを得る。

リーン・スタートアップでは、上記の「構築→計測→学習」の1サイクルを、なるべく早く多く回せ、と言う。「学習」の結果、必要ならば製品の方向性についてもう一度考え直し、場合によっては方向性を変える = pivot (ピボット) し、進めていけば良い、というのである。

特にお金も時間にも余裕がないスタートアップは、「イノベーション」の依拠する仮説が正解か不正解かをなるべく早く、1ヶ月〜3ヶ月くらいで検証すべきであり、その検証のために製品を作るべきだ。その製品のクオリティは、仮説の検証をするのに必要最低限のもので良い。仮説の検証は、「ユーザの話を聞く」=「製品を客に実際に使ってもらう」でする。その結果を元に合理的にプロジェクトを進めていくことが大事だ、ということなのである。

僕はこのリーン・スタートアップ的方法論を読んだときにかなり視界が晴れた。
ひとつは、昔僕が関わっていたプロジェクトが何故上手くいかなかったのか、ということについてかなり理解できたことがある。

僕は昔、とあるプロジェクトに関わっていたことがある。
  • そのプロジェクトは非常に素晴らしいグローバルなエンジニアリング集団で進められていた。
  • プロダクトを考えるチームは、頭の切れる優秀な人たちばかりであり、プランや理論は非常に素晴しそうに思えた。
  • エンジニアリングチームはそのプランを元に、非常に優れた開発プロセスを採用しつつ半年以上かけてプロダクトを作りリリースに漕ぎ着けた。
  • そのプロダクトは、リリースはされてもユーザは全くつかなかった。
この経験について、僕としては何故上手くいかなかったのか整理がつかず、3年くらい頭の片隅で悩んでいた。チームは優秀だったようにしか思えなかったからだ。

しかし、これもリーン・スタートアップ的に見ると、「製品の依拠する仮説を検証しようとせず製品開発を進めた」ことが原因だった、と言えるんだなぁ、と分かった。僕らは「半年以上かけて誰にも求められていない素晴しいものを作った」、ということであり、「間違った仮説を元に素晴しいチームで作った」ということなのである。

「仮説の提案者」が悪い、というのは違う。「仮説は検証されなければならない」、ということなのだ。リーン・スタートアップは、このような「時間をかけて誰も使わないものを作る」悲劇を避けるためにも、「早い段階での仮説の検証ループを回す」ことを強く推奨するのである。

リーン・スタートアップでは、仮説検証のために必要な機能以外は全て切り捨てて構わない、とも述べる。

最近、「プリミティブなものだけを作ってリリースするのが大事」みたいなことを良く聞くけれども、「じゃあそのプリミティブって何よ?」って思っていた自分にとっては、リーンスタートアップ的に述べるならば「仮説の検証に必要なものだけを作ってリリースする」ってことか、とハラオチした。検証の結果、使ってくれる人がいるならばプロジェクトを進めれば良いし、そうでないならばもう一度考え直す、ということなのだ。

この他、リーン・スタートアップでは、従来のプロジェクトが上手くいっているかいっていないか、といった判定基準についても警鐘を鳴らしている。
従来は「サイトのPV数」や「ダウンロード数」等でプロジェクトの成功、失敗を測っていたが、プロジェクトでは「継続率」をあげていかなければ持続可能な活動にはならない、として、こうした従来の判定基準は偽りの判定基準であるとし、従来とは異なる分析手法を導入すべきだ、と主張する。

技術が進歩し、何かを作る敷居がどんどん下がっていき、モノ作り手にとっては多くの競合がひしめく昨今、意味のあるものを作っていくために非常に本質的なことが述べられた本でした。

6月も終盤戦。
今月はあと2冊本を読了したい気概であります。